共有教本「オカリナ入門」

 はじめまして、オカリナ奏者の岸本みゆうです。

 ぼくがオカリナに初めて出会ったのは、1998年の2月でした。今ではオカリナの本はたくさんあるけれど、当時はたよりにする本を見つけることがむずかしく(あったんだろうけど)、楽しみながら試行錯誤して身につけていったという感じです。

 この本は、まだオカリナを吹いていない人にも、もう何年もオカリナを吹いている人にも、これが共通の入門書として、いつでも、誰にでも役に立つようにとの願いが込められています。

 こんなことを「おそるおそる」言う方がいます。

「楽譜が読めません」
「音痴です」
「音楽(楽器)をやったことがありません」

 そう言いたくなる気持ちはわかりますが、安心してください。どんな方にもこの本は役に立つでしょう。ただし、こうした言葉は、何度も言う必要はありません。何度も言うことで、自分を縛る言葉に変わってしまいます。

オカリナについて

 オカリナは、1850年ころ、イタリアのジュゼッペ・ドナーティ(Giuseppe Donati)さんという方が考案した陶器でできた楽器です。イタリア語の「ガチョウ(oca)」と、「かわいい(carina)」という言葉を組み合わせて「オカリーナ」と呼びました。日本では一般的に「オカリナ」と呼んでいますので、この本ではそのように表記することにします。

 ヨーロッパでは、多くの地域で、赤茶色をした年度を固めて焼いて、建物の壁のレンガにしたり、舗道に敷き詰めたりする風習、文化が一部にあります。この粘土や焼き物をイタリア語で「テラコッタ(terra cotta)」といいます。日本でもレンガや植木鉢などに使われているので、目にする機会はあると思います。

 オカリナは、もう少し目の細かい土を使い、テラコッタで中を空洞にして笛を作り、10個ほどの穴を開けて素焼きにしたもので、現在、イタリア・ブードリオでは、五代目のファビオ・メナーリオ(Fabio Menaglio)さんが、テラコッタでオカリナを作っています。

 ドナーティさんがオカリナを考案するより前にも土や陶器で作られた「土笛」はありました。そういった玩具だったり、祭器(さいき)だったりした土笛の起源には諸説あり、紀元前のずっと前に中南米で生まれ、世界中に広まったのではないかという説もあります。

 日本にも鳩笛というものがあります。おそらく土笛は、世界のどこか一箇所だけで生まれたのではなく、自然の中で生まれた風の音や波の音、鳥の鳴き声をお手本に、石や木や土などの材料でさまざまな場所で、自然に生まれたのではないでしょうか。

オカリナの種類

 オカリナには、いろいろな大きさの違う楽器があります。ハ長調のドレミで演奏できる楽器をC管(しーかん)の楽器と呼びます。オカリナの音域(音の高さの幅)は、1オクターブと少ししかないので、C管以外にも他のドレミを持つ高さのちがう楽器が作られました。今でもよく使われているのは、F管、G管、D管などです。また、それぞれに1〜数オクターブ高い(低い)楽器が作られています。

 一般によく使われ、初心者におすすめするのは、アルトC管、ソプラノF管です。

 また、音域の異なる2つから4つの管が、ひとつになった複数管の楽器も作られています。2つの管がひとつになったダブル、3つの管がひとつになったトリプル、4つの管がひとつになったクアドラなどがあって、メーカーによって、ダブレット、トリプレットなどと呼ばれています。管が増えることで、音域が広がり、演奏できる曲が増えます。

吹き方

 オカリナの本体から煙突のように突き出しているのが吹き口です。この吹き口から息を吹き込んで音を出します。吹き口には、細く平たい、小さな穴が空いています。この様子は縦笛(リコーダー)の吹き口によく似ています。これは、息がそのまま細く平たく、少しずつ出ていくように作られているからです。

 本体には10個〜13個くらいの穴が空いています。これは指で押さえるための指穴です。穴を押さえたり、離したりすることで「音程(トーン)」を変えられるので、この指穴を「トーンホール」と呼ぶこともあります。

 オカリナを吹くときは、左手は手のひらや指先が自分の顔の方を向きます。右手は、その反対に手のひらや指先が前を向きます。指先で1個ずつ穴を閉じて、10個の穴を閉じたときに「ド」の音が出ます。右手の小指から順番に穴を開くと、ドレミの音階が吹けます。ただし、左手の小指は穴をふさいだままにしておきます。

 下の楽譜は、左から順に「ミファソラシドレ」という音のつながりになっています。私の教室では、毎回全員でこのような音階を吹いて、息と音程を確かめます。

図1 それぞれの音は、じゅうぶんに間(ま)をあけて、ゆっくり8拍を目安に伸ばします。

 このあとは、もう一度、最初のミの音を確認します。このあたりの息遣いが他の音を吹くときにも基準になります。ミーレードーと、低い音を確認します。低いドの音はなかなか出ませんし、二人以上で吹くと音程がなかなか合いません。それより低い音はなおさらです。